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 オーソン・ウェルズ『オーソン・ウェルズの フェイク』 (1975 イラン, 仏, 西独) ★★★★


 もっとも単純なパラドックス「わたしは嘘つきである」 これが真ならば、「わたしは嘘つきである」というのは偽となる。そうすると、「わたしが嘘つきだ」と言った人間のその言葉は真となるので、その人間は嘘つきでない。ということは、「わたしが嘘つきだ」と言ったことは嘘になり.....
 ほんとうと嘘をまぜこぜにするとどうなってしまうのか、いかにもオーソン・ウェルズらしい人をくった話。
 イビサ島には二人のフェイカーがいて、一人はセザンヌやモジリアニの贋作画家エルミア・デ・ホーリー、もう一人は『贋作』を著したクリフォード・アーヴィング。この二人にいかにもという格好でオーソン・ウェルズがインタビューしていくというドキュメンタリー。と、ドキュメンタリーというと、このパートは本当のことのように見えてしまうかもしれないけれど、このドキュメンタリーというのも、「ヤラセ」つまりfakeなのかもしれない。
 だいたいね、「前半のエルミアとアーヴィングの部分はほんとうだ」などということ自体、かなり眉唾。ボクなんてね、エルミア・デ・ホーリーもクリフォード・アーヴィングも知らないから、その存在自体がfakeだろうとハナっから疑ってかかってるんだが、どうもそのような二人がいたというのは事実のようで、じゃ、この映画に出てきたエルミアとアーヴィングは、その当人なのか。わかってる人間にはわかってんでしょうがね、別に俳優を起用しなくっても、世の中にはフェイカーなんてごまんといるわけで、そのフェイカーをエルミアとアーヴィングに仕立て上げるのは簡単なこと。いや、だからね、狐につままれたような気分。
 そこへもってきて、自分自身がかつて脚本を書いた『火星人』がラジオから流れることで全米がパニックに陥ったなどと、これもほんとか嘘か、かなり眉唾な話を織り込んできて、しかもご丁寧に、ここではその映像まで見せちゃうわ、あげくの果てに誰だかは『市民ケーン』になったなんて大サービス。あ、そうそう、火星人の乗った空飛ぶ円盤がW.T.C.に激突してW.T.C.は真っ二つに崩壊してしまうなんてね、まさかその嘘が30年後に現実になろうなどとは!! きゃはっ、大うそ(^◇^;)
 さて、後半のですね、オヤ・コダールとピカソの話はウェルズが「ちゃんと言ったでしょ。前半は本当のことだけれど、後半は嘘ですよ」って。はい、ここで嘘つきのパラドックス。さすがにピカソがオヤ・コダール扮する女に惚れ込んで20枚もの絵を描きあげ、そのモデル代として20枚の絵をまきあげられたというのはいかにも嘘八百とわかりきってはいるものの、ひょっとしたらそういう事実があったとしても....なんて思わせてしまう。
 ちなみにオヤ・コダールってのはオーソン・ウェルズ晩年のつれいですね。何がなんだか、最後の最後まで、人をくった話に終始してしまって、これぞ奇人オーソン・ウェルズの遺作としての面目躍如ってところ。こういう映画もありなのね。

F FOR FAKE
監督 オーソン・ウェルズ
脚本 オーソン・ウェルズ
撮影 クリスチャン・オダッリ / ゲイリー・グレイヴァー
音楽 ミシェル・ルグラン
出演 オーソン・ウェルズ / オヤ・コダール / エルミア・デ・ホーリー / クリフォード・アーヴィング / ジョセフ・コットン / ポール・スチュワート / ローレンス・ハーヴェイ

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2004年02月29日(日)
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