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 ▼ ドゥシャン・マカヴェイエフ『保護なき純潔』 (1968 ユーゴ)

 なんとも(^◇^;) これ、どこで見つけてきたんだろ。変です、変わってます。
 元はといえば1942年、ドイツの占領下のセルビアで、ドラコリューブ・アレクシッチによって作られたセルビア初のトーキー『保護なき純潔』。なんて言うてるけれど、セルビアってどこだんねん状態。ウ〜ん、たしか第1次世界大戦はセルビアの皇太子が暗殺されたことがひきがねになってとか。。。。ちょっとここで地図だけでも見ておこう。を〜、セルビアというのは旧ユーゴスラビアの首都ベオグラードのあるとこなんだ。とにかくナチス・ドイツによって占領されておったわけですね。
 そうした占領下にあって映画を作るというだけでもどえらいことなのに、公開までやってしまった。そして公開するやいなや、どっと映画館に人が押し寄せて、そうしたら糞ナチスが黙ってるわけがなくて、公開禁止に、そして監督・脚本・主演のアレクシッチは逮捕された。そのフィルムを没収されたんだか、やっとこさ持ちだした原版はアレクシッチの兄の手で缶に石綿でくるんで封印、そして地中に埋められてナチスから逃れたという。
 なぁ〜んて、よく調べてるでしょ(^_^) いへ、調べたのじゃなくてこのドゥシャン・マカヴェイエフによる『保護なき純潔』の中で克明に明かされていること。
 終戦後、46年だったか、地中から掘り起こされたセルビアの歴史的な映画を、ドゥシャン・マカヴェイエフが復元し、と同時に、原版の制作に関わった人たち、さらにはアレクシッチ本人へのインタビュー、さらに当時のニュースソースも取り入れて、マカヴェイエフがまさにリミックスしたというとんでもないシロモノ。
 さて、アレクシッチというのは、アクロバットマン(アクロバットする人のことなんて言うんだい?)だし、彼の強靱な歯で鉄を曲げたり、空中にぶらさがったりと、かなり、いや強烈にキワモノな人。そのような強烈無比なサーカスを大衆の前で演じて見せていたんだけれど、自分の演技を残すため、また金のために作ったのが、原版の『保護なき純潔』。こちらは話としては単純、アナ・ミサロサフリェビッチがそんなアレクシッチに惚れてしまう。ところがそれに反対する母親は男をけしかけてアナを襲わせてしまう。アナが襲われているところに、ロープにつかまったアレクシッチが空中を飛んできて助け出すという非常に他愛のないお話。ところがどっこい、話はスカみたいに単純なのに、映像がちょーイケテル。マカヴェイエフに言わせると、ヌーベルヴァーグを先取りしていると。そのことばはホラでも何でもなくて、歌ありーの、構図とかもばっちり決まってるし、それにブレヒトの表現主義的でもあるんだよね。もちろんモノクロなんだけれど、パートカラーになったりもする。ここんとこはよくわからないんだけれど、それはマカヴェイエフが復元するときに着色したのかも。でも公開当時に同じセルビアでかけられていたドイツ映画が総天然色だったといってるいところからすると、原版からしてパートカラーだったのかもしれない。
 それだけなら、マカヴェイエフは単に復元した人にすぎないんだけれど、いわゆるリミックス部分がむちゃイケテル。製作当時からするとずいぶん筋肉もゆるんでしまってはいるけれど、アレクシッチ自身が登場して往年の得意技である歯で宙づりになってみせたりもするし、戦争によって破壊されたセルビアの町の様子を織込んでみたり。そうするととかく記録フィルムっていうのは悲惨さばかりを強調していやらしさが目についてしかたがないんだけど、マカヴェイエフの視点がすごくいい。マカヴェイエフというのは、アレクシッチ全盛の時にまだ少年で憧れの目でアレクシッチを見ていた。だからこのマカヴェイエフによる『保護なき純潔』にはその憧れ、尊敬の目で作られたんだなというのがストレートに伝わってくる。ドキュメントをはるかに越えてしまってるね。

Nevinost Bez Zsastite
監督・脚本 ドゥシャン・マカヴェイエフ
撮影 ブランコ・ペラック / ステヴァン・ミスコヴィッチ
出演: ドラコリューブ・アレクシッチ / アナ・ミサロサフリェビッチ
★★★★★



2002年07月04日(木)
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