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 ▼ ジャック・リベット『美しき諍い女』 (91 仏)


 これはすごく好きな映画。
 全編通して音楽なし。あるのは最初と最後のタイトルバックだけ。画布の上を滑る木炭、筆の音が音楽なのだ。4時間に及ぶ長尺もののゆうに1時間は越えるパートが描き出すペン、木炭、筆、そして画家の手の動き。これで話の流れを作りだしていくんだからすごい。この画家の手は絶対にミシェル・ピコリじゃないよね。
 年老いた画家フレンホーフェル(ミシェル・ピコリ)は、かつて彼の『美しき諍い女』と題する絵のモデルだったリズ(ジェーン・バーキン)と隠遁生活をしている。そこへ画商ポルビュス(ジル・アルボナ)の紹介で、若い画家ニコラ(ディビット・ブルスタイン)とその恋人マリアンヌ(エマニュエル・ベアール)がやってくる。そのマリアンヌにインスピレーションを得たフレンホーフェルは彼女をモデルにしたいと言い出す。そうして、10年前にリズをモデルにし、途中で断念してしまった『美しき諍い女』を、マリアンヌをモデルにして、再びとりかかるのだった。
 ここからが、画家対モデルの格闘といっても過言じゃないシーンが続いていく。エマニュエル・ベアールはほとんど全裸で演じきるのもすごい。全くえっちくさくないのにひどくエロティック。うーん、いわゆる男と女のセックス描写なんてのは全くないんだよ。ただ画家の前で全裸でいるだけなのにエロティックなのだ。
 これはフレンホーフェルが描き出す絵画ではなくて監督ジャック・リベットが描き出す絵画なんだ。何枚も何枚も描き出す画家の習作を、普通ならぱっぱっぱっと見せてすませるところ、あえて長尺になるのも厭わずに、画家の手、その制作過程を映しだすことによって監督ジャック・リベット自身の絵画にしてしまっているのがほんとにすごいんだよ。
 そしてこの絵画の中に、画家とモデル、画家と元のモデル、画家とその妻、モデルと元のモデル、若い画家とその恋人、とそういった個々の組み合わせの葛藤が織込まれていく。しかもその葛藤は男と女というレベルに留まらないで、肉体をも剥ぎ取った自分自身との葛藤にまで行き着いてしまう。とりわけ、『美しき諍い女』の元々のモデルであったリズと、いま新しく『美しき諍い女』として存在しようとするマリアンヌの葛藤が、ごくごく静かに進んでいくだけにきついなぁ。それが、実は初めに書いた「画布の上を滑る木炭、筆の音楽」を遮断する形で、ひどく大きな音で閉まるドアだったのだ。
 蛇足だけれど、マリアンヌをモデルにして完成された『美しき諍い女』は、僕たち観客の目に曝されることはなかった。それもそのはず、もう十分に4時間にわたって曝されたのが完成された『美しき諍い女』だったのだから。
 もうひとつ蛇足だけれど、公開当時にヘアで大騒ぎ、さらにいまだにビデオではボカシが入っている。ロダンの抱擁に白い布を被せた歴史的大恥をここでもかいてることを思い知れ!

La Belle Noiseuse
監督 ジャック・リベット
脚本 ジャック・リベット / パスカル・ボニツェール / クリスティーヌ・ロラン
撮影 ウィリアム・リュプチャンスキー
美術 マニュ・ド・ショビニ
出演 エマニュエル・ベアール / ミシェル・ピコリ / ジェーン・バーキン / マリアンヌ・ドニクール / ジル・アルボナ
★★★★★



2002年05月05日(日)
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