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 ▼ クシシュトフ・キェシロフスキ『トリコロール:白の愛』  (94 仏,ポーランド)


 『青』のクールな始まりにくらべて、なんとも情けないスタート。白!とまず印象づけられるのが、鳩の糞なんだもん。カロル(ズビグニエフ・ザマホフスキ)がなんとも言い様がないくらい情けなく描かれる。ほとんどマンガとでも言えるくらいに情けない。あとで明かされるけれど、まさかコンクールで優勝した美容師だなんて信じられないです、正直。「紺屋の白袴」で青(紺)から白だなんて、キェシロフスキが知ってるわけないっつうねん。それくらい頭はぼっさぼさで、単なる美容師というのでもたいがい信じがたい。それにひきかえ、ドミニクのジュリー・デルピーの可愛いこと。これ、どう見たって最初からつりあってません。だって、みんなジュリー・デルピーにばっかり目が行ってしまってて、これ、情けなカロルの話でしょ。もうちょっといい男を出して欲しいよのぉ。いい男がガチーンと落込むのを見るのもけっこう楽しいんです(本音)。このポスターのザマホフスキはまあまあいけてんだけど(でもないか、結構情けない顔してるか)、ほんと映画の中じゃ最初から最後までいけてないんだよなぁ。いやほんと、こういうのって俳優のルックスというのも大事ですよ。それで行くと、ミコワイ(ヤヌシュ・ガヨス)のほうがずっとずっと渋いじゃないですか。
 話の流れとしてはミステリー仕立てで、展開としては三作中でいちばんおもしろいんだけれど、好きじゃない。ボクには火曜サスペンス劇場程度のプロットにしか思えないんだけどね。特にポーランドに戻って成功する話にしたって、ほとんど退屈なわけで、この中盤の作りは粗いなぁ。唯一、間を持たせているのは、ミコワイとの関係だけ。
 どんどん枝葉を取っ払っていったら、偏執的な男(ヘタすりゃストーカー寸前)が、結局、ドミニクを騙すことでしか愛を取り戻すことができなかった。そんなのって愛って言うんかいな。というわけでラストでカロルが流す涙なんてのには全く思い入れできない。とにかく最後の最後までカロルがかっこいいと思えたことはなかった。キェシロフスキの美学というのはどこ行ったんだろうと思ってしまう。所詮、愛なんて金とえっちだってか。それならそれでよし。
 結局ね、ジュリー・デルピーなんでしょ。白いウェディングドレスで映像自体がホワイトアウトしてしまうジュリー・デルピーであったり、凍りつくように「ノン」と突き放すジュリー・デルピーであったり、これは確実に男を狂わせますよ。さらには観てる側からすると、そんな妖精とも小悪魔とも形容してしまえるジュリー・デルピーが、終盤でドーンと突き落とされてしまうとなるとサディスティックな快感というか、観る側もその落差に酔ってしまうわけ。
 男を狂わせるという点からみると、確かに、あそこのベッドシーン(ボクはあのベッドシーンはあまり好きでなくて、『青』の2度のベッドシーンのほうが好き)というか、次の朝、情けなドミニクが出ていったあと、赤のシーツにくるまれたジュリー・デルピーの真っ白な背中にぞっこん ― だって、ボク、背中フェチですもん ― 逝ってしまいそう。ボクだったら、あの時点で計画変更ですね。そうすると、ドミニクが仕組んだウソというのが明るみになってしまって、せっかくのドミニクの偏執的計画もおじゃんになって、再び情けないドミニクに逆戻り。そうすると、《覗き》はつかえなくなるのけれど、ボクはそのような結末の方が好きだな。その先にどうなるか、知ったこっちゃない。その結末は『赤』にまかせればいいのですよ。
 あ、話が逸れた。。。ジュリー・デルピーがまずあって、そこに男が情けなければ情けないほど話として際立つ。でもどこかでかっこいいドミニクがないと。ザマホフスキが上手くないというのでなくて、ジュリー・デルピーに完璧に食われてしまってる。ジュリー・デルピーとザマホフスキのつりあいがとれていない。ほんと彼女、出る幕少ないのに、これほんとに男の話でしょ(3つのポスターを見くらべりゃ明らか)、なのにザマホフスキで引っ張っていけないんだから。
 深く考えると徹頭徹尾、情けない男を描きたかった、ととれないこともないんだけれど、それならそれでジュリー・デルピーに対抗できるだけの色気のある男優を徹底的にいたぶってほしかった。

 「白」という仕掛け。。。。自分で観て楽しんでね。そこんとこは十分楽しませてもらいました。しかし、白=平等という意味もいまいち見いだせなかったです。

Trois couleurs: Blanc

監督 クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本 クシシュトフ・キェシロフスキ / クシシュトフ・ピェシェビッチ
撮影 エドバルド・クウォシンスキー
美術 ハリナ・ドボロボルスカ / クロード・ルノワール
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
出演 ジュリー・デルピー / ズビグニエフ・ザマホフスキ / ヤヌシュ・ガヨス / イエジー・シュトゥール
★★★☆





2002年01月08日(火)
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