maggot's favorites #17



山田詠美
ベッドタイムアイズ
河出書房新社 '85.11.30



「あのお肉どうするの?」
ラスト。。。「行かないで」という言葉を詠美はキムに発させない。
かわりに「あのお肉どうするの?」と。
 この言葉回しに詠美のネイティブな天才を見たのはもう何年も前のこと。ラストでばたばたとした愁嘆場を演じさせるかわりに、延々とスペアリブのレシピを展開する。スペアリブを素手で貪り食うスプーンの指先が脂でぎとぎとに光る。
 「しゃぶらせて。」
このリアリズムはいったい何なんだ。そのぎとぎとに光った指を舐めさせている情景がまざまざと目に浮かぶ。
そんなことを思いながら読み返してみたら、このたった100枚程度の中編の中に散りばめられた食べ物の数々。思うに「食べる」という行為はとてもエロティックだ。最後には肉を喰らいあうことになってしまう、それを避けるために媾うのだと書いたのは若き日のの倉橋由美子だった。
「それらの食べ物がスプーンの体の一部になるのだと思うと、私は彼の体を食べてる気がして嬉しかった。」
と、そしてスペアリブはスプーンの体の一部になることはなく、スプーンの体も食べることはもはやなくなって、冷蔵庫の中であのお肉は腐ってしまった。   

2001/02/09
 2001/06/06