maggot's favorites #15



赤坂真理
ミューズ
文藝春秋 '2000.3.1



いかに最近赤坂真理に入れ込んでるのかわかるだろ、このfavoritesで同じ作家から2つ、それも立て続けに、ひっぱってきたのは初めて。たとえば龍の「オーディション」をアップしたけど、そのあと読んだ「イン・ザ・ミソスープ」のほうがおもしろかったし、出来の上でも「イン・ザ・〜」のほうがいいと思うよ。だけど敢えてアップする気にならなかった。そのうち「69」だとか「イビサ」だとか「KYOKO」だとかはアップしてもいいかなって思うけど。
この三ヶ月ほどの間に、赤坂真理、室井佑月、佐藤亜有子の単行本で出てるのはすべて読みきってしまった。その中でやっぱり赤坂真理がピカイチ
で、なんでまた赤坂真理かっていうと、
 ほんの心持ち上目遣いで、先生は私を見る。視線は一束落ちた前髪を透かして私に届く。軽い侮蔑のまなざしを私は、つくって返す。本気ではない。抜けてるのか。考える。あるいは抜けてることを装って、ちがう、最初本当に天真爛漫に抜けていたのだ、そうするうち、その質で誰かに可愛がられた、おそらく複数の女に、それで無意識のうちにその感じを定着させた、先生はそんな匂いがする。たくさんの、いろんなタイプの女に愛された匂いが、この男にはする。ふんだんに愛された―無償で。
この一文での文章のスピード感、句読点の使い方に惚れちゃったんだよぉ。このことは「ヴァイブレーター」では書かなかったな。ボクは国語の先生でも、文芸評論家でもないから、確かなことは言えないけど、ボクが知るかぎりで、あったとしても、こうした思考の動きをここまであからさまに表出して行ったものはなかったように思う。この方法は、この「ミューズ」に限らず、これまでの赤坂真理にとって大きな武器だ。読者をそこに出てくる人間に同化させてしまう。要するに赤坂真理が仕掛けた罠にひきずりこまれるのだ。
 私が三センチ落ちる間にペニスが透明な汁を分泌するのを見る、汁が張力をもって盛り上がる、水玉が震える、そのとき私は震えた、実に悠長に、手が差し出される、あそこに落ちればいい、私は思う、さらに長い時間を経て私は吉岡の手に抱き留められた、動けなかった、自分の指一本、動かすことができなかった。
「蝶の皮膚の下」
ここには句点(。)がただひとつ、読点(、)だけでつながれていく。そうすることで、よりリアルに視覚的にまるで映像のように、いや、そこらのAVでは表現できないような、たとえば「水玉が震える」のを表現したAVはあっただろうか、直接的に映像として表現する以上に、妄想であるにせよ、よりリアルにひきずりこまれている自分がいるのに気づく。勃起している。

歯が再生しないということが私にはひどく怖かった。肌は傷ついても自己治癒し、内臓だって薬や手術で治るし元に戻る、半分に切られても復元するものさえある。なのに歯だけが、折れたり虫歯になったり削ったりしたら、二度と元に戻らない。
失われ、復元されるのが不可能なもの、それを手を替え品を替え追いつづけているのが、赤坂真理。そして実は、まんまとその赤坂真理が仕掛けた罠にひきずりこまれた自分。

あとなんだかんだってあんだけどねぇ、ゴタクを並べれば。それはそれで自分で読んで確かめろよ。ボクはここで評論家になりたくないや。

2000/04/16