maggot's favorites #10



吉本ばなな
白河夜船
福武書店 '89.7.15



もう10年も前のこと本屋でなんかないかなと見ていたら、すぐそばにわりと教養のありそうな親子がやってきて
「ばななさんの新しいの出たね」
ん? なんやねん。そりは、ふざけた名前じゃんかよぉって、手にしたのが、この『白河夜船』
さすがに『言語にとって美とはなにか』直伝だけあって、歳のわりに(これ書いたのって二十歳そこそこだよねえ)文章に格調がある。その頃、つまり'89頃、なんかいまいちぴきーんと来るようなもんがなくて、不毛の80年代ってやつかな(笑) いい加減、何読んだらええんやらようわからんかったんよね。だからすぐはまってしまった。
注:知らない人に言うときますが、ばななの父ちゃんは、われらの教祖、かの吉本隆明で、その'70当時『共同幻想論』『マチウ書試論』とか『言語にとって美とはなにか(略称「言・美」)』をむさぼるように読んだのでした
たてつづけに『キッチン』『うたかた・サンクチュアリ』『TUGUMI』と読んで、はたと思った。こいつこういう文章をまき散らかして酔いしれとんのじゃなかろか。はたして、ばななにとって『言語にとって美とは』なんやねんって気になってきたのね。帯にも引用されてた部分
また朝になってゼロになるまで、無限に映るこの夜景のにじむ感じがこんなにも美しいのを楽しんでいることができるなら、人の胸に必ずあるどうしようもない心のこりはその色どりにすぎなくても、全然構わない気がした。
ところがはたと困ったことにこの一文を抜き出して、前後の脈絡もへったくれもなく、自分自身に引用して、酔いしれているボクがいたのね。てへへへ。夜中に保線の車両のあかりが、昼間見ると真っ黒な川に映されて、当然、朝になるとって、をい、告白コーナーちゃうねん。 ああ、もうゴタクはなんでもいいです。そういうふうに、はっと思わせてくれるだけで十分せつなくていいのです。
夜中の庭では、木々が光って見える。
というすこーんとした書きだし。たまらんです。
ちなみに、ばななの中で物語的にみると、『満月』(『キッチン』所収)がいちばん好きです。

00/02/01