maggot's favorites #6



大島渚
新宿泥棒日記
A.T.G.



新宿見たけりゃいま見ておきゃれ
       じきに新宿、原になる

これはもうフェヴァリットを通り越してるんだよ。一本の映画、わずか2時間の体験が、17歳のボクに残した影響は計り知れない。この映画とあのときに出会ってなかったら、いまこうしていなかったかもしれない。確かに、この映画に出会わなかったとしても、いずれどこからか、いまの自分が形成されていったかもしれないけれど、けれどもこの映画から開けて行った世界はそれまでの世界からするととてつもなく魅力的だったのだ。
この映画から30年近くたったある日、ボクはちょっとした時間つぶしに新宿の紀伊国屋に行った。'70年代の頭には東京に来るたびによく紀伊国屋に行ったものだったが、それから20年以上たって、ボクの生活も変わっていた。当たり前のことだけれど、もうあの頃のようには若くはない。しかし紀伊国屋でほろ苦い思い出に浸っていた。紀伊国屋の赤茶けたタイル壁の階段を降りながら、ボクはこの「新宿泥棒日記」の冒頭のシーンを思い出していた。と、そのとき急に大きな声がして「待ちなさい!」という女の声、だだっと階段を駆け下りて行く若い女の子をガードマンらしきおばさんが追いかけて捕まえてしまった。ボクはあまりの偶然にどきっとしたのだった。
そう冒頭のシーンは紀伊国屋で万引きして階段を下りていく横尾忠則を横山リエが「待ちなさい」と手を握るのだ。横尾は横山リエのその握られた手に「よかったよ、この感触。思わず射精しそうでした」と返すのだ。
現実から虚構がはみ出していく。虚構が現実を崩していく。30年を経た横山リエが、女の子に変身してしまった横尾忠則をとりおさえたんだとボクは考えておくことにした。
唐十郎を知ったのも映画だった。富岡多恵子を読むようになったののもこの映画からだった。そうしてボクはほんとにわけのわからないまま、横尾が万引きしたジュネの「泥棒日記」を読み耽った。ほんとに全然ジュネなどわかっていなかったにも関わらずに。そうしてボクの目の前に現実に虚構をひっさげた唐十郎が現れた。
でもほんとに新宿は原になってしまったね。あのとき見といてよかったよ。

98/02/16